「洋食と日本酒」で11年。開業のきっかけは、突然のご縁からでした。
まずは簡単に、自己紹介をお願いします。
「TANASUKE」は、魚介をメインにしたフレンチベースの洋食と、日本酒をコンセプトに展開しているビストロです。
一見、「洋食と日本酒」と聞くと、「あまりイメージがない」と思われるかもしれません。僕自身も、20代前半までは、日本酒といえば甘ったるい、飲みにくい、和食としか合わない、というイメージを強かったんです。しかし、その頃にたまたま飲んだ、広島県備後の日本酒「天寶一」が、とても味わい深く綺麗なお酒で、思わず心を奪われまして。それをきっかけに、たくさんの日本酒を飲んでみたのですが、日本酒には甘みだけでなく、酸味など幅広い味わいがあることを発見し、「これなら洋食と合う」と思い、このコンセプトで展開することを決めました。
「TANASUKE」の日本酒メニューでは、「天寶一」を含め、自分が飲んでおいしいと思った日本酒だけを取り扱いしています。お客様からは、「洋食にとても合う!」「新しい発見だ!」と、、好評いただいています。
「TANASUKE」さんの開業の経緯は、どのようなものだったのでしょうか?
じつはこのお店の開店経緯は、かなりドタバタとしたものでした。
「TANASUKE」は2008年、大井町線「等々力駅」の、とある飲食店の居抜き物件でオープンしました。そこは僕の地元で、その物件は、僕が若い頃によく通っていた飲食店があった場所。その頃、料理人としてのキャリアにも迷っていた時期だったのですが、そんな時、店主から「お店を畳むから、ここで自分のお店をオープンしないか?」とオファーをいただきまして。これがその状況を抜け出すきっかけになるかもと思い、話を受けることにしました。
ただ、独立するために貯金をしていたわけでもなく、急いで金融公庫に開業資金を借りるなど、準備を進めていました。内装なども1から作り直しましたが、残りの資金はたったの20万円しか残らなかったんです。さすがにまずいと感じていましたが、地元だということもあり、友人や知人がよく食べにきてくれたので、何とか続けることができ、今年で11年目を迎えることができました。
このテナントに移ってきてからは、2019年7月でまる3年になります。もともとの場所が古くなり、そろそろ移転しようかと考えていたところ、この中目黒の物件に出会いまして。中目黒は人気エリアで、なかなかテナントが空くこともなく、「これはチャンスだ!」と移転を決定。開業当初から「突然」に振り回されていますが(笑)、ようやく常連のお客様もつくようになり、順調に営業することができています。
時間もないし、周りに鮮度のいい魚もない。それでも、質のいい魚を取り扱いたかった
弁慶丸との取引前に抱えていた悩みや、解決したかった問題などはありましたか?
まず悩みについては、いい魚が全然手に入らない、というものがありました。
築地市場へ行けば、それなりに新鮮な魚は手に入るのかもしれません。しかし、店は僕と家内の2人で営業していて、そもそも人手が少ない中で、仕込みなどの準備をしないといけない。そうなると、築地市場まで買い付けなんて、とてもじゃないですが、できないのです。近くの魚屋も見に行ってみたのですが、最近こそいい魚が増えてきたものの、当時は鮮度的にも、とてもじゃないけどいいと思える魚を見つけることはできませんでした。
築地は遠いし、近くにはいい魚がない。だからこそ、手間なく、いい魚が手に入る方法はないかなと、悩んでいたんです。
他に、何か悩みなどはありましたか?
これは悩みではないのですが、「産地直送の魚を取り扱ってみたい」という気持ちはありましたね。
いくら築地でいい魚が手に入るといっても、市場を通すとなれば、収穫から2日ほどかかるのが一般的。それを、産地直送であれば、収穫された翌日には、手元に届けてもらえる。たった1日の違いですが、魚は鮮度が命ですからね。そのたった1日でも、大きく変わることは知っていたので、それで鮮度や味などに、どれだけの違いが出るのかを知りたいな、と思っていました。
また、「産地直送」というレッテルが貼られた食材を取り扱うことで、お店のメニューに特色を持たせたいな、という思いもありましたね。
もともと、「洋食と日本酒」という、あまり他にないコンセプトで、お客様に選んでいただけていたのですが、それだけでは少し弱いかな、と思いまして。他に魚を取り扱っているお店は、周りにも当然たくさんあるので、コンセプトだけでなく、素材の部分でも、差別化したいなと思っていたんです。
また、当然周りの飲食店のほとんどは、築地市場で仕入れをしています。それであれば、うちは築地のものを使わず、他の飲食店で扱っていないような、産地直送の素材を使えば、違いが出せるのではないか。そう思い、東京でも扱える産地直送の素材を探していました。
心地よい磯の香りに、思わず感動。その鮮度に魅せられて、10年以上仕入れています
そんな中、弁慶丸のことを知ったきっかけは、何だったのでしょうか?
産地直送で魚を仕入れられる先を、インターネットで検索していた時に、弁慶丸のことを知りました。
それまで、色んな業者から魚を仕入れていたのですが、やはり納得いく魚を仕入れることが難しくて。それでインターネットで、「魚 産地直送」と検索してみたんです。そうすると、思っていた以上に色んな情報が出てきて、それらを上から順番に全部見ていきました。
その中の1つに、弁慶丸のホームページがあって、そこで初めて知った、という経緯です。
弁慶丸との取引を決断された理由は、何でしょうか?
ホームページから、河西さんの魚にかける情熱が伝わってきて、「この人からは、どんな魚が送られてくるんだろう」と、興味を持ったからです。
そこには、河西さんが脱サラをして漁師になったエピソードが書かれていたのですが、それを読んだ時、魚というよりも、河西さんという人間に、心惹かれたんですよね。とくに、「魚を捌かず丸々送るから、鮮度を見てくれ!」というスタンスから、素材で勝負する本気度や、河西さんが扱う魚への自信も感じられて。それが、心に響いたんです。
そういう部分もまるっと含めて、「この人から、魚を仕入れてみたい」と思うようになり、問い合わせをさせていただきました。
初めて取引を始めたきっかけはそれでしたが、その後も取引を10年継続しているのは、最初にいただいた魚を食べた時の衝撃が、今でも忘れられないからです。
初めて魚を注文した時、中に鯛が入っていて、最初はそれの頭を塩焼きにして、家内と食べてみたんです。すると、焼いた段階から心地いい磯香りが漂ってきて。食べてみると、身もふっくらしていて、すごくおいしいねと、2人で感動しながら食べた記憶は、未だに覚えているんですよね。
このクオリティであれば、お客様にも喜ばれるだろうから、自信を持って提供できる。そう確信したからこそ、あえてそこから他のものを探さず、弁慶丸一本で取引させていただいているという状況です。
実際、弁慶丸の魚をどう評価してくださっていますか?
とにかく弁慶丸の魚は、味もさることながら、鮮度がいいんですよね。
魚は、数日置くことで旨味成分が引き出され、おいしく食べることができるのですが、それは抜群に新鮮な魚でなければできないのです。鮮度の良くない魚でやってしまうと、内臓が腐ってしまい、臭みが出る原因になりますからね。
しかし、弁慶丸の魚は鮮度がいいので、置いていても状態が悪くなることもなく、美味しく食べられる状態を、長くキープできるのが素晴らしいところ。下ろして寝かしていても、1週間は香りも味も持つほど、食材の寿命が長いんです。食材の寿命が長いということは、お客様に提供できる期間も長いということなので、ロス(廃棄)になりにくい。だから結局、安くて状態の悪い魚を仕入れるよりも、何倍もパフォーマンスに優れているということです。これは、飲食店のオーナーとしては、非常に嬉しいポイントですね。
また、鮮度がいいと、それだけ調理にかかる時間が短くても済むので、一番おいしく食べられる形で、お客様に提供することができるんです。
例えば「TANASUKE」は、洋食をお出ししているお店なので、お刺身などは提供していません。そのため、火入れをするなど、基本的に何かしら手を加えることが前提なのですが、鮮度の悪い魚であれば、しっかり火を入れないと怖いので、満遍なく焼いていきます。しかしそうすれば、火が入り過ぎることによって、魚の身が固くなってしまい、バシバシとした食感になってしまう。これが一番おいしい状態かと言われれば、決してそうではありません。
しかし、魚が新鮮であれば、最低限の火入れでも安心して食べられるので、シンプルに調整できるのです。皮はパリッと、身は余熱でフワッと仕上げるなど、魚の素材をそのまま活かして仕上げられるので、お客様にも「おいしい!」と喜ばれる料理を提供できますね。
見知らぬ食材を目の前に、料理人の血が騒ぐのであれば、ぜひ一度仕入れてみてください
弁慶丸の魚は、どういった飲食店さんにおすすめでしょうか?
個人で切り盛りをされていて、「いい魚を仕入れたいけど、時間がない!」と悩んでいる飲食店さんには、ぜひおすすめしたいですね。
その中でも、洋食屋には特におすすめしたいです。弁慶丸から送られてくる魚は、少し小さいものが多いのですが、和食だと小魚ばかりでは少し扱いづらいというイメージがあります。しかし、こうした食材を綺麗に活かすことは、洋食屋のシェフの得意分野のはず。「TANASUKE」のような、洋食系の個人店であれば、積極的に取りいれてみてもいいと思いますね。
また、好奇心旺盛で、且つ「自分の料理の腕を上げたい!」と成長意欲のあるシェフには、弁慶丸の魚にトライしてもらいたいですね。
というのも、弁慶丸から送られてくる魚の中には、あまり見たことがない魚種も含まれていることが少なくありません。そうした魚を見て、「どうすればおいしく調理できるかな」「次はこうしてみようかな」と、料理人の血を騒がせられる人には、とても面白い経験ができるはず。ちなみに「TANASUKE」では、ハタハタのエスカベッシュを提供しているのですが、これは弁慶丸からハタハタが届き、試行錯誤をした末に生まれた、当店の看板メニューの1つです。
今まで、あまり触ることのなかった食材との出会いがきっかけで、こうしたメニューを生み出すことができるのも、弁慶丸との取引をする上でのメリットなのだと思います。
逆に、チェーン展開するほど規模の大きな飲食店にはおすすめするできません。
そうしたお店では、仕入れに安定を求めますが、弁慶丸は小規模で、かつ自然を相手にしているので、安定的に魚を供給することができないからです。もし仕入れがうまくできなかったとしても、メニューを変更して柔軟に対応ができる個人店などの方が、向いているのでは、と思いますね。
弁慶丸に対する不満や要望があるとすれば、どういったものが挙げられますか?
たまには大きい魚を送ってくれると、ありがたいなぁと思ってはいますね。
例えば、明後日に20名の宴会が入っている、となった時に、大きい魚をオーダーしても、確実に入って来るとは限りません。ただ、それをすることは難しいということは理解しているので、そうした場合には、別の魚で対応する他ありません。できることなら、こうした団体様を迎える際にも、弁慶丸の魚を使い、一番おいしい料理を持って、お迎えしたいものです。
要望に関していうと、漁師ならではのこだわりや、収穫の背景などもあれば、もっと教えてほしいですね。
お客様の中には、そうした話が好きな方も多くいますし、僕自身もそれを知ることで、もっと料理にこだわりや思いを持って向き合うことができるからです。その方がより臨場感を感じられますし、届いた魚たちへの思いもまた、変わってくると思います。
最後に、弁慶丸とのお取引きに迷っている方へ、一言お願いします!
とにかく、一度取ってみて、実際に味わってから判断してください!というのが、一番伝えたいメッセージですね。
弁慶丸が提供してくれるのは、魚を通じた、ある種のエンターテイメントのようなものだと思っています。毎回届く魚が全部一緒ではなく、中には知らない魚まで入っているので、受け取る際にワクワクしますし、それをお客様に出した時、お客様も「こんな魚、見たことがない!」と、楽しんでくださっています。ただ、いい食材を仕入れるということだけでなく、そうした「エンターテイメント的な面白み」という付加価値があるのも、弁慶丸から仕入れる意味の1つだと思っています。
河西さん自身、魚に対し、尋常じゃない愛情と情熱を持たれている方だからこそ、送られてくる魚に間違いはありません。
あなたももし、少しでも興味が湧いたのであれば、騙されたと思って、一度取り寄せてみてください。きっと、これまで味わったことのない感動と、新しい魚との出会いがあるはずですよ。
弁慶丸コメント
先日、ようやく新しいお店にお邪魔させて頂く事が出来ました。以前と変わらず、アットホームなお店の雰囲気はそのままで、なぜだか?気持ちが温かくなるのは、お酒や料理だけではなく、棚澤さまご夫婦のお人柄が作り出しているのだなぁ~と実感しました。隣の知らないお客さまともついつい仲良くなってしまう不思議なお店です。飲食店の激戦区と呼ばれるエリアだけあって、業種業態が様々なお店がひしめき合っています。中目黒にビストロ「TANASUKE」あり!となるように、精一杯、魚たちをお届けいたします。