漁師の仕事|鮮魚の通販、お取り寄せなら弁慶丸

漁師の仕事

漁師のお仕事とは?

ひとくちに「漁業」と言っても、大きく分けて、沿岸漁業沖合漁業遠洋漁業の三つに種別されています。弁慶丸が従事していますのが、沿岸漁業です。沿岸漁業は、日本の漁業者の88%を占める日本漁業の基盤です。主に10トン以下の漁船を使用する小規模な漁業で、そのほとんどが個人経営をしており、中には、親子経営している親子船もあります。
基本的には、ほぼ日帰りできる範囲が漁場です。その漁業種類は多く、各種一本釣り漁業底曳き網漁業刺網漁業延縄漁業定置網漁業などのほか、養殖業も含まれます。 弁慶丸の場合は、人に雇われる沖合漁業・遠洋漁業には興味がなく、初めから、日帰り操業で、個人経営できる沿岸漁業に魅力を感じていました。
漁師のお仕事」と言われても、一般の方は、なかなかイメージしづらいでしょうから、 まずは、弁慶丸の年間スケジュールからご紹介していきましょう。

漁師の春夏秋冬

春・4月~5月末頃

資源保護のため「底曳き漁」は禁漁期間です。6月からの底曳き漁解禁に向けて網の手直しや網の仕立てが主な仕事です。船本体のメンテナンスをする時期でもあり、船を海から引き揚げてドッグします。普段、メンテナンス出来ない船底の汚れを落とし、船全体の塗装、スクリューや舵の手入れなどを行います。海中での浮遊物(主に材木等)との接触でスクリューが歪んでいたりすると大きな出費になります。漁師が儲かっていた昭和の時代は、年に2~3回ほどドック作業をしていたらしいですが、今や年に1回ドックする事が精一杯です。
漁の方は 甲イカの籠漁」「カワハギ漁」「素潜り漁をしています。

スクリューや舵を念入りに点検します

船を陸に揚げるドック作業の様子

甲イカの卵がギッシリと付いています

夏・6月~8月末頃

底曳き漁が解禁となり、6月中は水深60~80m付近でメイタガレイ、タイ、カワハギ狙いで漁をします。7月初旬から水深100~130m付近でムシカレイ、アンコウ、マコカレイを狙います。独立して2~3年はエチゼンクラゲが毎年、出現し、大被害を受けました。2008年以降は大きな被害はなくなりましたが、メイタガレイが資源枯渇で獲れなくなっています。また燃料の高騰に伴い、低速で網を漕ぎ続け、燃料をたくさん使う「底曳き漁」をする漁師が年々減ってきています。

言わずと知れた魚の王様・天然真鯛

幻の高級魚になりつつあるメイタカレイ

初夏の到来を告げる高級魚・イサキ

秋・9月中旬~12月末頃

赤イカ(ソデイカ)の一本釣り漁に、2時間くらいかけて水深300m付近まで出漁します。赤イカは対馬海流の流れや水温によって来遊量が増減するので、毎年水揚げに大きな差がでます。地球温暖化の影響で、招かざるお客さんが「エチゼンクラゲ」で、有難いお客様が「赤イカ」と言うことです。ここ20年ぐらいで山陰地方でも獲れるようになった沿岸漁業の救いの星です。この漁は、各船との釣果の差が激しく、収入にも大きく響きます。

エチゼンクラゲを捕食するカワハギの群れ 大自然の循環には無駄がない

弁慶丸は2018年に一日の水揚げ記録としては最高記録の28万を水揚げしました。ただ釣果が坊主(ゼロ)の日は、燃料代も出ず赤字ですから、喜んでばかりはいられません。

最大で18キロにもなる大きなイカ

セリ市場に並ばないほどの大漁の赤イカ

冬・1月~3月末頃

年明けからは底曳き漁に戻り、水深30~50mでシタビラメやヒラメを狙います。この時期は冬の日本海が相手なので、「脱サラ船酔い漁師」にとりましては、最も過酷な試練の季節です。また、朝の荷揚げ作業も一番辛い時期です。冬の日本海では、大きな時化が続き、月に3~5日ぐらいしか海に出る事が出来ません。寒さも厳しい季節ですが、懐事情も寒い季節です。この時化休みの合間に、倉庫にこもり、おおがかりな網直しや道具の手入れ・改良をしています。

雪の重さで船を沈ませない様に、雪かきは必須作業

底曳き漁の網を分解して改良作業中

弁慶丸に聞きました!「10の質問」

Q1:漁師のお仕事は楽しいですか?

世の中には色々な仕事があると思いますが、私の知る限り、漁師以上に面白くエキサイティングな仕事は無いと思っています。魚が捕れた時の感動を一度味わったら、もう病みつきになります。例えるなら、毎日が少年時代の「虫獲り」の様なものです。
「今日は○○君がクワガタ3匹捕まえた!」
「明日は僕がカブト虫5匹獲るぞ!」といったように。
朝のセリ市場には、一晩の漁の成果が船ごとに並べ出されますので、「他の船には負けないぞ」と毎日が真剣勝負です。いくら親方や先輩漁師がいても、一歩海に出たら年齢や経験に関係のない実力主義の世界ですから、自ずとやる気が出てきます。魚をたくさん獲れば、その分、収入も増えますが、その逆も然りです。サラリーマンと違って、頑張れば頑張った分だけ報われます。
また、海の上からでしか味わう事が出来ない素晴らしい景色との出会いも、この仕事の楽しみの一つです。満天の星空朝焼けに煙る山々の神々しいシルエット水平線に沈む夕日の美しさと輝き始める朝日には、思わず手を合わせてしまいます。時には、イルカショーや夜光虫のイルミネーションショーのお出迎えもあります。自然が描き出す芸術作品に、ただただ驚かされ感動します。
大自然を相手にする仕事なので、醍醐味はありますし結果が単純で分かりやすい。単純な私には最適で、今となってはもう他の仕事を考えることはできません。

この日一番の値段がつく活魚の大ヒラメを素早く荷揚げ

Q2:漁師のお仕事はやはり危険ですか?

昔から「板子一枚下は地獄」と言われる様に、一歩間違えれば確実に死が待っています。テレビの報道で、船の事故のニュースを聞く度に身が引き締まる思いです。独立して16年になりますが、何度か危険な目に遭いました。今思い出しても冷や汗がでます。事故が起こる時は一瞬の出来事なのですが、不思議とスローモーションになって、自分の生い立ちやら家族の顔やら色々な事が頭の中を走馬灯のように駆け巡る経験も何度かしました。
一番多い事故は「転落」です。これには、船を走らせたまま人だけが海に落ちてしまうケースと、網や道具に巻き込まれて海中に引きずり込まれるケースの2パターンがあります。漁師の仕事は、毎日が同じ作業の繰り返しなのですが、波のうねりや潮の流れなどで思うように網や道具が船から出ない時など、いつもと違う作業を行う場合が要注意なのです。私の場合は、後者のケースを経験しました。アクシデントがあり、ある作業に集中していた時、突然、船に半分残っていた道具が、勢いよく海の中に落ちて行きます。

慌てて、体をかわしたのですが、フッと気がつくと束ねたロープの中にまだ足が残っていて、そのまま道具とともに海中に引きずり込まれそうになりました。船の最後尾まで体ごと引きずられ、「いよいよもうダメか」と海に引きずりこまれる体を踏ん張った所で、運良く長靴だけが脱げ命拾いしました。今でもその時の夢を見ては、汗だくになって目が覚めます。また2010年にも底曳き漁で不法投棄された大きな碇(いかり)が網に入り、網を揚げる途中で、ワイヤーが切れ顔面に直撃し、そのまま緊急搬送されました。この時も、直撃の反動で体を船の外飛ばされましたが、たまたま手すりにつかまり、転落を免れました。未だに事故の後遺症はありますが、生きている事に感謝です。
よく親方から、「人には与えられた寿命がある。」という教えを受けました。「生きる奴はどんな危険な目に遭っても生きて帰って来る。死ぬる奴は簡単に死ぬる。」ということだそうです。海の事故では死体もあがらず、残された家族は諦めがつかないまま悲しみ続け、死亡届けも受理されず保険金も支払われないといった状態は、よくあることだそうです。漁業は、まさに生と死が紙一重の仕事なのです。

僚船によって引き上げて頂いた大きな碇と初対面

Q3:漁師のお仕事でつらい事は?

漁師の仕事は、夏の猛暑さや厳冬の中での究極の4K(キツイ・汚い・臭い・危険)の仕事だと想像されるみたいですが、実は、まったくそのとおりです(笑)。しかし、魚がたくさん獲れればこの辛さは一挙に全部吹き飛んでしまいます。ですから、実際、それ程「苦」と感じることはありません。魚を獲る事に必死ですし、緊張感の伴う危険な作業ですので、暑いだの、寒いだのと言っている余裕がないのかもしれません。
それよりも、私の場合は網直し作業が一番「苦」なのです。少しでも多くの魚を獲ろうとして、網を瀬に近づけ過ぎて大破れし、船の上で必死になって網直しをする時が一番辛いのです。とりあえず次の網を打つ為に応急処置として網のツギハギをするのですが、ほとんどツギハギになっていません(笑)。もともと手先が器用でない上に「船酔い」という得意技の持ち主ですので、船上で揺らされての網直し作業は地獄です。

漁師の基本である網直し作業はまだまだ半人前以下

もう一つ、荷揚げ作業も苦手な作業です。港に着くなり息つく暇もなく、魚の鮮度を落とさない為に瞬時に選別(種類や大きさ)をしなければいけません。選別した魚の重さを量り、氷を敷いた発泡ケースに並べてセリ市場に運ぶこの2~3時間の作業で、疲れが倍増します。特に独立当初は、子供連れでの荷揚げ作業でしたので、なかなかスムーズにはいきませんでした。セリまでの時間との戦いの中、子供は泣き出すし、魚は次々選別しなければいけませんし、今となっては懐かしい思い出です。
地元「NPO法人・賀露おやじの会」の石黒さんがこの荷揚げ作業の体験記を書いておられますので、ご紹介します。

仕分けする種類が多い底曳き漁の荷揚げ

箱数が多く体力勝負のカワハギカゴ漁の荷揚げ

<ひと夏の漁師体験記 by おやじ@事務局>

この夏、弁慶丸さんのご厚意により漁師の勉強をさせていただきました。
といっても魚の荷揚げのお手伝いなのですが、本当にびっくりすることばかり。たいへんいい経験をさせていただきました。その一部を紹介します。

漁師は孤独な男一匹の仕事・・・と思いきや、漁師の仕事に家族の手伝いは必須なのです。
多くが夫婦の共同作業で成り立っている仕事だったのです。まずは、これにびっくりでした。鮮魚を取り扱うのですから、短時間ですばやく仕事をこなすためには夫婦の息があわなくてはなりません。当然、弁慶丸おやじと弁慶丸おかみは抜群のコンビネーション。
そんなこととはつゆ知らず、この夏、邪魔者がわがまま体験をお願いしてしまいました。
黙って受け入れていただいて本当に申し訳ありませんでした(まずはお詫びから)。

朝5時、船が港に着く前に弁慶丸おかみは氷、仕分け用の箱、秤などの魚仕分けグッズを準備します。
発泡スチロールの箱に氷を詰め、丁寧に押し固めます。氷は多くても少なくても駄目。さっそく弁慶おかみより作業手順を伝授されるのですが、根っからいい加減な性格の私にとっては多いも少ないもありゃしない。一山いくらの感覚で「えいやっ」とスコップですくった氷が地面にバラバラ。「氷とてお金、拾って入れるのも非衛生的でしょ」とのご指導を受け・・・とほほ。

船が着くと、弁慶丸おやじの顔色が気になります。
「大漁?どんな魚が採れた?」の問いかけに弁慶丸おやじはいつもニコッと応えるだけ。後で友人の漁師に聞いたのですが、「漁師はよーけ(多く)採れたちゃあなん(採れたなんて)言わあへん(言わない)もんだ。いつも採れなんだ(採れなかった)と言うもんだ。」ということらしい。
とにかく皆さん無口で作業を進めているのです。「漁場ってもっとにぎやかイメージじゃないの?」と不思議に思っていたのですが、採れなかった漁師に気を使うのが慣習になっているのだな、と気付いたのはずいぶん後のことでした。

荷揚げ作業は、まず活き魚から。
ぴちぴち跳ねる魚には、水族館や料亭のイケスの魚とは全く異なる食欲感があります。活き魚はいい値が付くそうですが、セリまでに死んでしまえばその他大勢といっしょで値は半分以下。死活問題とはまさにこのこと。
それじゃあ採った魚をみんな活かす方法を考えればと口出しをしてみるのですが、しょせん素人の浅知恵。漁師の苦労と知恵は外からは見えないのです。

活き魚の次は、あんこう、かすべ(エイ)、かわはぎ、イカ、鯛など数が少ない魚を分けていきます。
もちろん魚の大きさを揃えながら分ける訳ですが、これがまたみんな同じような大きさに見えること。「そんなに神経質にならなくても・・・」と無神経な私の軽口に弁慶丸おやじ&おかみから冷たい視線。「いい加減に分けてもセリでちゃんと見破られて値段をたたかれます。」ということで、慎重な仕分けを横から見るだけでした。

一箱に詰める重量には規定があるのですが、同じ種類の魚の数が揃わない時は別の種類の魚を入れます。
ここにもテクニックがあります。なるべくいい値がつくように組み合わせを考えなければなりません。もちろん素人は口出し無用。「こいつは旨いから高いぞ」だけでは駄目で、今市場でどのくらいの値が付いているかのという予備知識を持った上で仕分けをしなければならないのです。

仕分けの後は重量を図り、氷を入れた発砲スチロール箱に魚を並べた後すばやくセリ市場へ持っていって箱を並べます。
箱ごとに仲買さんが競り落とすわけですので、もちろん見栄えも重要。大きな魚の下に小さな魚を入れてごまかそうという私の安易な発想は当然禁じ手です。

メインはカレイの仕分け。高級メイタカレイから始まり、エテカレイに終わるまで黙々と作業は続きます。
メイタは高級魚ですが、「スレ」といって体にこすれた傷のある魚はちゃんと申告しなければなりません。スレの見方を何回もおやじに教えてもらったのですが、素人の私には模様と区別ができません。「そんなのいっしょでもいいじゃないの。」という私の疑問は、未だ解消されていません。というのも、この魚は本当においしい魚なのです。ムニエルは格別最高。今まで味わった魚の中でも上位にランキング入りです。大きな傷なら仕方がありませんが、こんなおいしい魚をスレだけで安くするなんて。
ついでですが、野菜や果物の傷物も商品にならないといって店頭に並ばないことがあるそうです。これについても大いに疑問ですね・・ここでは関係ない話ですが。

ついでに、かすべ(エイ)の塩焼きも最高です。今までエイは醤油で煮たものしか食べたことがありませんでした。
弁慶丸おかみ語録に、「鳥取の人はおいしい魚が手に入るのにおいしい料理を知らない。」というのがありますが、ほんとうにそうだと実感した一品でした。

この夏の主要な魚はカレイでした。とはいってもいつも多く採れるものではありません。
ひどい時には船の燃料代も出ないとのこと。漁師は、確かに割のいい商売ではなさそうです。シケが続けば船は出ません。船が出なければ収入もありません。「この夏は特にひどいぞ」と年配のあばさん(おばちゃん)のため息に、港の本当の苦労を知りました。

船が着いてから1~2時間程度であわただしい時間が終わります。
その頃市場ではせりが始まりますので、弁慶丸おかみは市場の方へ。いくらでせり落ちたかを確認します。弁慶丸おやじは船内の片づけやら網の修理といった雑仕事。それが終わってやっと帰宅です。少々の睡眠をとって、午後1~2時には出発、朝5時半の帰港まで船上での生活、そんな日々の繰り返しです。

漁師の仕事のほんの一部を見せていただいたのですが、本当に厳しい職業です。
今、漁師を希望する若者は決して少なくないそうです。大自然と向かい合いながら自分の力で糧を得るわけですので、やはり魅力はあるわけです。
一方、彼らを取り巻く経済システムには様々な課題が潜んでいます。彼らは商人ではありませんから、そのシステムを受け入れ、その中で漁師を続けなければなりません。
今、そして将来にわたり漁師が漁師であるためには、漁師が地域をつくり地域の顔であり続けるためには、そんな課題が頭の中にこびりついた短い夏の体験でした。

賀露おやじの会は、賀露の漁師を応援します。弁慶丸に続く若者達も応援します。とはいっても何もできませんが、気持ちだけは前向きのおやじたちでありたいと思っています。

がんばれ弁慶丸! 跳んでけ!弁慶丸

Q4:1日のお仕事の流れを教えて下さい。

商売する漁によって、時間や生活スタイルが異なるのが漁師の仕事です。狙う魚に合わせて出漁時間が異なります。底曳き漁の場合ですと、昼の12時半頃に港に出勤します。
気象状況を考慮しながら出漁をするかしないかを、みんなで相談して決めます。話がうまくまとまれば13時に出港します。この出漁するかしないかの話をまとめるが一大イベントで、殴り合いのケンカも起こります。漁師は一匹狼の孤独で自由な仕事だと思われがちですが、実は、安全操業を優先する為、取り決め事が多いのが、現状です。漁場までの到着時間は季節によって異なりますが、冬期は近い漁場で15分、夏期は遠い漁場に行きますので2時間30分くらい船を走らせます。
一日の操業で3~5回くらい網を入れます。ちなみに弁慶丸は、独立した年に何度も網をカキコマセて(海底のドロやゴミで網が曳けない状態の事)、9回も網を上げた「ありがたくない伝説の記録」を持っています。
一晩中操業し、翌朝の6時頃に港に帰ってきますので、約17時間は海の上にいる計算になります。それから獲ってきた魚を荷揚げし、網直しや次の出港の為の網のセッティングをして、家に帰るのが8時半頃です。少しでも長く寝たいので、30分で風呂と朝食を済ませた後、9時には爆睡状態です。
この束の間の幸せな仮眠を3時間程とった後、また港へ出勤となります。底曳き解禁の6~8月はこのサイクルが繰り返しの毎日です。

Q5: 魚がいなくなっているって本当ですか?

磯焼けで藻場が育たない海

本来の豊かな海の様子

目に見えて漁獲量が少なくなってきました。これがよく耳にする「資源枯渇問題」なのでしょう。昔は瀬も人口漁礁も何もない野原(海底)から、いくらでも魚が獲れたらしいです。
今は魚が獲れないため、最新のGPSや魚探・ソナーなどのハイテク機器を使い、瀬に隠れている魚さえも根こそぎ獲ってしまうという正に悪循環状態になっています。私たち漁師は目先の生活の為に、自分達で自分達の首をどんどん締めっているのでしょうか。資源保護の為に禁漁期間を設けたり、網の目を規制したりしてはいますが、既に手遅れの様な気もしています。昔のように連続操業をしても魚が捨てるほど獲れた時代は、もう戻ってこないような気がします。今までの乱獲に、天罰が下されているのかも知れません。
地球温暖化による「異常気象」や「生態系の変化」も、魚がいなくなっている大きな要因のひとつだと思います。「この季節にあの瀬に行けば、必ずあの魚が獲れる!」という昔ながらの漁師の知恵を活かすことが出来ないのです。弁慶丸のようなインスタント漁師が思わぬ所で魚を獲って一番漁になってしまうのは、何故なのでしょう。
海の状況は年々悪くなる一方で、魚たちの悲痛な叫びが聞こえてくるようです。
「海の水温をぬるま湯にしてくさって、このダラズ(お馬鹿さんという意味)が!ウロコがふやけてしまうだがや!」(賀露の漁師風)

Q6: お仕事上で困っている事はありますか?

魚が獲れなくなったことに加え、命をかけて獲った稀少な魚の値段の、まあ~安い事!!
これは「魚価の低迷問題」です。この背景には日本人の食生活の変化(魚から肉へ)や輸入魚、養殖魚の激増があると言われています。魚は種類によって本当に味が異なり、味わい深く、本来、日本人が持っている繊細で緻密な味覚(舌)には、最適な食材なのです。
世界に誇る水産大国日本が崩壊しつつあります。先進国の中で食料自給率38%の国って本当に恥ずかしいことです。
魚を毎日食べている漁村のお年寄りの元気(パワー)をご存じでしょうか。カッコ悪い話ですが、腕力に自信のある弁慶丸が72歳の現役バリバリの老漁師に腕相撲をして負けてしまうのです。これぞまさしく「魚パワー」!!漁村の平均寿命が長いわけです。やはり日本人には魚が合うのです。是非、日本の漁師が獲った安全で美味しい魚を食べて、正常な舌と元気を取り戻して下さい。
更に、最近特に頭を痛めているのが燃料費の高騰」です。一般家庭の家計に直撃している問題でもありますが、漁家にとっても厳しい現実です。
船の燃料に使用している重油は、独立してから2年で約1.7倍に高騰しました。底引き漁で遠方に出て一晩操業しますと、約26,000円の燃料代がかかります。今までで最高に燃料代が高騰した時には、一晩で約48,000円にもなりました。高騰した油代を上乗せした魚の値段(浜値)が付く訳もなく、漁師は海に出ることすらも考えてしまう時代になりました。漁師はただ提示された浜値を受け入れる事しかできません。陸の会社のように業務改善やら経営改革なんてできるはずもありません。いったいどうすればいいのでしょう。
「資源枯渇」「魚価の低迷」「燃料費の高騰」で漁業経営は厳しい状況にあります。後継者不足も当然の結果だと思います。命を削って大変な思いをして生計が立てられなければ、誰が自分の可愛い子供に後を継がせましょうか。ですから、弁慶丸の様な変わり者が漁師になれるのです(苦笑)。
しかし、奥さんの目が日に日に厳しくなっていくことが、もっとも辛い現実なのです。

Q7: 漁師のお仕事での新たな取り組みはありますか?

新たな取り組みとして、「未利用・低利用魚加工グループ」なるものを立上げ、活動しています。わかりやすく言いますと、漁師が海の上で捨てて来る魚たちを、「もったいない」ので、何とかしようという活動です。一時期、生産調整のために、処分される野菜が「もったいない」ということで話題になりましたよね。実は、海の上でも、同じ現象が起こっていました。
セリ市場に出しても、値が付かず赤字になる魚は、漁師が自ら獲った魚を海に捨てているのです。しかし、これらの「捨てられる魚たち」はけっして、マズイわけでも、食べられないわけでもありません。ただ、食する習慣がないだけなのです。
同じ魚なのに、所変われば、高級食材・高級珍味として、取り扱われていたりするので、不思議なことですよね。
魚の高い安いという商品価値は、私たち人間が勝手に、貼付けた「エゴシール」です。大自然の中で生きる魚たちにとってみれば、高いだの安いだのそんなこと全然関係ありません。相田みつをさん風に言いますと、ヒラメもアジも当事者同士は比べも競争もしていません。ヒラメはヒラメの与えられた命を、アジはアジの与えられた命を精一杯生きているだけです。私たち漁師は、故意に魚を網に入れ、魚の命を奪うことが仕事です。ですから、消費者の方に魚たちをおいしく食べていただき、魚たちを成仏させる責任があると思います。
そこで、「捨てられる魚たち」を救おうと立ち上がったという訳です。「捨てられる魚たち」をピーアルしたり、無料試食会を開催したりして、一般消費者の方々に馴染んでいただこうと頑張っています。前述しました「資源の枯渇問題」も踏まえて、「限りある資源の有効活用」も大切な漁師のお仕事です。

マスコミ取材を受け、捨てられる魚たち猛アピール

試食販売会も大盛況で手応えもバッチリ

Q8: 今までで一番怖かった体験は何ですか?

いろいろ怖い思いをしてきましたが、一番怖かった体験は、独立して2年目の夏に底曳き漁で、「あるモノ」が網に入った事です。なんだと思います?
「あるモノ」とは・・・「」なんです。 よく夏が近づくと、テレビ番組でも心霊特集とかやりますよね。港でも、怪談話が始まるのです。よく聞かされる話は、事故等で海から捜索しても上がって来ない遺体が、網に入って上がって来るという話です。暗い海から上がりたくて、自らの意志で網の中に入って来ると語り継がれています。遺体を怖がって持ち帰らなかったり、雑な扱いをすると、その船は事故やトラブルに見舞われ、その反対に、遺体をきれいに真水で洗い、丁寧に港に持ち帰ると不思議な事にその船は大漁が続くそうです。
そんな話を何気なく聞いていたある晩に、事件が起こったのです。
ちょうど、二番目の網を上げた時に、いつも網に入る石や木屑のゴミとは形が違う物体がゴロッと船のデッキ上を転がりました。初めは何の意識もせず、魚の選別をしていました。
魚の処理が終わり、ゴミの仕分けをしていて、何気なくその物体に触った瞬間。ギャ~!!ず・ず・頭蓋骨じゃん!!形は半分位割れているけど、漫画でよく見るドクロマークの形をしています。

弁慶丸家電コレクションその12 炊飯器!!

もう、この瞬間からパニック状態です。魚を獲るどころではありません。船のあらゆる電気は点けっぱなしですし、気を紛らわす為にいろんな人に携帯電話で話し続けました。充電が切れると訳わからずに今度は大きな声で一晩中、歌いっぱなしです。早く夜が明けないかと、どれ程待ちわびた事か・・・
最後の網を上げ終わると、一目散に港にダッシュ!!無事、海上保安庁に「」を引き渡しました。もう大役を終え、力が抜け落ちました。しかし、密かに期待していた大漁になぜだか当りません。他の船も大漁にあやかろうとピッタリと弁慶丸をマークしていますが、大漁の気配がありません。3日後に海上保安庁から連絡が入りました。「この度は、ご協力ありがとうございました。検査の結果、イルカの頭蓋骨と判明しました。残念ながら、大漁は期待できないかもしれませんが、これに懲りずに又、ご協力下さい。」とのご連絡。
「あの一晩の緊張感は何だったんだ~!!」とある意味、また力が抜け落ちた弁慶丸でした。

一晩の操業で入るゴミのほとんどがプラスチック製品

Q9: 今でも、船酔いするのですか?

そうなんです。残念ながら、今でも船酔いを完全克服することは出来ておりません。さすがに倒れ込んで動けない状態までにはならないですが、波が高かったり、うねりがあったりすると途端に体のキレが悪くなり、生あくびや冷汗が出てきます。リバース(吐く)しちゃうことも、たまにありますが、これはもう体質なのだと諦めています。船酔いに効くというおまじない体操食生活の改善も試みてみましたが、荒れた日本海相手では勝ち目なしのようです。
内緒の話なのですが、何十年漁師している人でも吐く事があると聞かされて安心しました。みんなカッコ悪いので言いませんが、結構、船酔いしている漁師は多いと思います(暴露)。特に時化で長期間、陸に上がっていると、体が元に戻ってしまいますので要注意です。長年、乗り慣れている自分の船以外だと、酔ってします漁師も多いです。漁師が旅行でフェリーに乗り、「気持ち悪かった」っておかしな話ですよね。50年、沖合の大型船で鍛え上げられたベテラン漁師でさえも、酔うのですから、独立して16年目のまだまだヒヨッコ漁師では歯が立ちません。
「運動神経が良くて、繊細な神経を持っている証なのだ!」という事にして、自分自身を慰めながら、今日も元気に海に出ています。「脱サラ船酔い漁師」のキャッチフレーズはなかなか取れそうにありません。

Q10: これから漁師になるために、必要な
資質や能力はありますか?

私が所属しますNPO法人「賀露オヤジの会」(こども科学教室・地域活性化活動している団体です)で、「漁師の学校」を作ろうという構想がありました。 その時に、みんなで考えた漁師になるための3箇条のご誓文を紹介したいと思います。
第1条 漁師はサイエンティストでなければならない
・海に乗り込むためには気象や海流を科学的に知らなければならない
・魚の生態を知り、魚を守り、育てることを知らなければならない
・海を守るために、廃棄物処理やリサイクルのことを知り、地球温暖化問題も考えなければならない
第2条 漁師はアーティストでなければならない
・漁師は、海の美しさ、たくましさ、厳しさ、やさしさを知らなければならない
・漁師は、多くの人間が忘れてしまった自然と人間のすばらしい関係を体感し、伝えなければならない
・漁師は、本当の人間らしさを考え、哲学、文学として世間に問いかけなければならない
第3条 漁師はビジネスマンでなければならない
・漁師は、自分の魚(商品)に付加価値を付けブランド化する能力が必要である
・漁師は、自然の価値を評価し、地域の活性化に繋がる産業を興す能力が必要である

弁慶丸とその仲間が考えた、これからの漁師に求められる条件です。
いまや、漁師は海から魚を獲ってくるだけの仕事では成り立たなくなっています。漁業プラスアルファが求められていると思います。農業分野で一時、よく言われた「半農半X」にならい、「半漁半X」をしていかなければ、生き残れない時代に突入していると思います。弁慶丸は元ビジネスマンの特性を生かして、特に第3条を意識して活動をしています。漁師直送の通販事業は、おかげさまで軌道に乗り、累計販売4万セットを売り上げております。(2018年 10月時点) 株式会社 弁慶丸の将来のビジョンとして掲げる生産者と消費者をダイレクトにつなぐ漁師直送文化の創造を地道に築き上げて行きます。まだ誰も歩んでいない未開拓のいばら道ですが、小さな一歩から歩んで行きます。応援よろしくお願いします。

子供たちの「将来、なりたい職業」に「漁師」がランクインする日を目指して

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