ボラ - 弁慶丸

西潟正人の魚道場

ボラ

2020.01.21

ボラ

 

スバシリ→イナ→ボラ→トド もっと細分化する地方もあるが、成長によって呼び名が変わる出世魚だ。ボラはさしずめ30~40㌢、トドは最大級の80㌢以上、トドの詰まりはここからきている。沿岸から河川にも入り込むため、環境の影響を受けやすい。ボラ待ち櫓(やぐら)、ボラ納屋など、各地に独特な漁法があったが、今は昔。好んで食べるより、ボラと聞いてイヤな顔をする人が多い。目を輝かせるのは、旨さを知っている漁師だ。彼らから驚きの料理法を教わったのも、遠い昔だ。

 

下ごしらえ

①沖合で捕れたボラは、腹が真っ白でよく太っている。

②胸ビレの際から、顔方向へ鋭角に包丁を入れる。反対側も同様にして、頭部を落とす。

③鋭角に包丁を入れた理由は、咽に幽門(ソロバン玉)が隠れているからだ。ボラなどの有機泥(デトリタス)食性の魚は、泥を漉し取るために食道に幽門ができる。俗に言うソロバン玉で、鶏の砂肝に似て珍味だ。

④周囲の皮を、ハサミで切っていく。ウロコを付けたままの、三枚下ろしだ。

⑤腹骨を、すき切る。

⑥尾の方向から、皮を引く。

⑦ウロコが付いたままの皮は、捨てる。ウロコ掻きが厄介な魚には応用でき、何より仕事が早い。

 

刺し身

⑧3種の盛り合わせは、手前がマグロ、右上がブリ、左上がボラ。特徴のある、ボラの白身は覚えておこう。

⑨ボラ1匹分なら大皿に、薄造りで盛ると豪華だ。1個しかないソロバン玉は4等分にして竹串に打ち、塩焼きして添える。

 

火取り

⑩頑丈なウロコは、飛び散るのを覚悟で掻き落とす。ウロコ掻きの道具がないと、大変な作業になる。ヒレの固い棘は危険なので、予めハサミでヒレを切り落とすこと。ウロコを落としたら三枚下ろしにして、サクに取る。片身の小骨を切り取り、2本のサクができたら金串を打つ。

⑪皮面を直火でまんべんなく焼いたら、水で冷やして水気を拭き取る。

⑫皮付きの刺し身。こえrも、ボラの光景だ。

 

からすみ

⑬ボラの卵巣は、からすみ(唐墨)作りに欠かせない原料だ。10月のいっときだけ、産卵に集まる雌ボラの群れを捕らえる。腹から取り出すときは、卵が流れないよう肛門周辺を付けたまま切り取る。

⑭濃い塩水で、血管などをきれいに掃除する。

⑮水を切る。

⑯粗塩に、一日漬ける。

⑰水洗いして、水を切る。

⑱日本酒に、一日漬ける。

⑲取り出して水気を拭き取り、ガラス板の上に置く。

⑳もう1枚のガラス板で挟んだら、重石をして形を唐墨のように平たく整える。

㉑形ができたら、風通しのいい日陰に干す。乾いてきたら、肛門周辺の身は切り捨てる。

㉒裏表に返しながら3日ほど干すと、飴色が濃くなっていく。

㉓思わず、木箱に入れたくなる仕上がりだ。

㉔自家製は贅沢に、厚く切る。数万円モンと、味は変わらない。

 

余談

からすみ作りの本場、五島列島周辺ではボラを好んで食べる。からすみ用に卵巣を取った身も、旨いと言う。近年は各地で、からすみ作りが行われるようになった。伝統がないから、卵巣だけを目的に捕獲する。ボラの本体は、捨ててしまうのだ。悲しいことだと思う。