シイラ
2020.01.20
シイラ
最大は2㍍を超え、夏のトローリング釣りでは花形だ。流れ藻など漂流物に付いて、よく群れる。ハワイで高級魚の「マヒマヒ」とは、シイラのこと。日本の特に関東では「死人食らい」などと呼び、忌み嫌う時代があった。そんな習慣が残っているのか、市場にはあまり流通しない。数が捕れると、値段はすこぶる安い。大型で美味しい魚なのに、もったいない事をしていると思う。九州から山陰地方には古くから食習慣があり、今回は元シイラ漁師で水産庁の「ウエカツ」こと、上田勝彦氏に指南役をお願いした。
下ろす
①生きているシイラの色彩は、形容しがたい美しさだ。青い体は金銀に輝き、紫の星がさんざめく。船に揚げた瞬間に透明感は失せ、黄色い塊になって死んでしまう。写真手前の額が大きい個体が雄、向こう側が雌だ。
②漁師は「シイラの皮には毒がある」と言う。表面のヌメリやウロコに、雑菌の付着など問題があるようだ。これを落とすには、金ダワシが必需品。全身をくまなく、ごしごしとこすり、きれいサッパリと洗い流す。現場作業に向いている。
③やむを得ずウロコ付きで持ち帰った場合は、テーブルに新聞紙を広げてから、下ろしに入る。
④胸ビレを起こして、後頭部から腹まで包丁を入れる。
⑤背ビレ際の皮を尻尾まで切り、腹側の周囲も切っておく。
⑥後頭部の皮一枚をしっかり押さえて
⑦尻尾の方向へ力強く引っぱると、片身の皮がきれいに剥がれる。
⑧背側を、中骨に沿って包丁を入れる。
⑨尻尾の身を持ち上げながら、腹側を中骨に沿って切っていく。
⑩左手は掲げるような恰好になって、片身は下ろせた。
⑪残った片身も、背側から包丁を入れる。
⑫胸ビレの際から腹側まで、周囲の皮を切ってから、同様にして皮を一気に剥がす。
⑬背側から、中骨に沿って開く。
⑭尻尾を身を持ち上げながら、腹側の身を開くと、2枚の片身が下ろせた。
⑮頭部を落として
⑯カマ下の薄腹を外す。
⑰後頭部の身が付いている部分だけ、削ぎ切る。
⑱カマ下の薄腹と一緒に、ぶつ切りにする。
⑲まだ、腹ワタが残っている。
⑳腹ワタを別にして
㉑胃袋は開いて、中身をしごき取る。
㉒肝臓あんどはぶつ切りにして、胃袋と一緒に塩でもみ洗いする。
味噌汁
㉓⑱と㉒を、たっぷりの水から煮る。アクは、丹念に取り去る。
㉔再度一煮立ちさせ、アクが消えたら玉ネギのざく切りを加える。
㉕玉ネギに透明感がでたら、出来上がり。濃厚なスープは、味噌汁より煮込み汁と呼んだ方が相応しい。
刺し身
㉖2枚の片身には、それぞれ小骨(血合い骨)が走っている。
㉗小骨を切り取ると、2枚の片身は4本のサクになる。
㉘シイラの腹身は、畳目模様が特徴だ。
㉙大きく、たっぷりと盛りつけたい。家族で遠慮なく食べられて、驚くほど旨い。シイラをバカにする人は、食べたことがないのだと確信する。
洗い
㉚薄造りにした身を、氷水でしっかり冷やす。身がはぜて白んできたら水気を拭き取り、辛子酢味噌でいただく。暑い夏には、嬉しい酒のサカナだ。
塩なめろう(ウエカツ流)
㉛サク取りした身に、まんべんなく塩をして10分ほど置く。玉ネギのみじん切りと合えるように、粗っぽく叩き切る。唐辛子と酢で、いただく。
塩さんが(ウエカツ流)
㉜㉛をさらに細かくし、包丁の腹で叩いてネバリを出す。塩によって水溶性タンパク質が滲み出るから、つなぎはいらない。団子をつぶした恰好にしたら、フライパンで焼く。子供でなくても、取り合いをする。
揚げ物
㉝シイラ料理で、フライは避けて通れない。切り身は大きめにして塩をふり、しばらく置く。
㉞水が出ると、身が締まってくる。
㉟小麦粉、パン粉など、好みの衣をつけて揚げる。
㊱どれも同じ、白身魚のフライになってしまうと思いきや、シイラだけは違った。揚げた身はホクホクとして、焼いた食感とも違う。油と、相性がいいのだろう。
余談
㊲定置網が絞られてくると、逃げ惑う魚たちが見えてくる。右往左往するのは、イワシの群ればかりではない。タチウオが矢のように走ると、エイはもたもたと姿を見せる。一際鮮やかで目立つ魚は、真っ赤なマダイ。見とれていると、網の底から、宝石のような魚が浮いてくる。マダイはもはや、色彩の相手役でしかない。青い宇宙に星屑を散らしたような生き物が、シイラだった。
㊳「ウエカツ水産」こと上田勝彦氏は、その1匹を船上で神経抜きという方法で締めると、嬉しそうに帰っていくのだった。魚の締め方、持ち帰り方については、別項を設けたい。