アオリイカ - 弁慶丸

西潟正人の魚道場

アオリイカ

2020.01.17

アオリイカ

 

料理屋では「イカの王様」と呼ばれるくらい、値が高い。生息地によって白イカ、赤イカ、くぁイカに分けられるようだが、流通名はアオリイカ。地方によって水イカ、芭蕉イカとも呼ばれる。イカ類の寿命は約1年といわれるが、アオリイカには80㌢、5㌔を越える大物もいる。高級イカだが、魚屋で1㌔前後なら家庭でも買える。アオリイカを1匹丸ごと、余すことなく堪能しようじゃないか。

 

締める

①アオリは馬腹を覆う、泥よけの馬具のこと。白は、水のように透き通るから。芭蕉はバナナの葉、幅広で大きな芭蕉葉をさす。

②高級イカだけに、漁師町では泳がせている魚屋が多い。外套膜の背側に指を差し込み、頭部とつながっている腱を切ると

③興奮色で茶色になっていた体が、見る間に白くなっていく。自然に任せて殺してしまうと、身質の劣化が早まる。美味しくいただくために、魚類には様々な締め方が行われている。ウエカツ水産こと、水産庁の上田勝彦氏が啓蒙している神経締めは、その最たるものといえる。

④ビニール袋に入れたら、氷が直接触れないように、新聞紙などで周囲を保護しながら持ち帰る。

 

ゲソの処理

⑤締めて1時間ほどで、全身は白濁してしまう。鮮度のバロメーターは、眼球周りの青色だ。

⑥イカ・タコなどの頭足類は、胴体と脚部の間に頭部がある。ここでは便宜上、頭部と脚部を一緒にしてゲソ部とよぶ。胴部(外套膜)の背側を持ち上げると、背骨の端が見えるはずだ。

⑦ゲソ部とつながっている腱を指で切り、透明なセロファンのような背骨を引き抜く。

⑧ゲソ部をつかんでゆっくりと、腹ワタ全体を引き抜く。

⑨墨袋の口を押さえながら、墨袋を外す。墨袋は料理に使ってもよし(コウイカの項を参照)、廃棄してもよし。

⑩肝臓を洗い流す。ゲソ焼きと一緒にしてもいいが、アオリイカやコウイカの肝臓は、スルメイカほどの味はない。したがって、塩辛にも向かない。

⑪ゲソ部は、腹側(漏斗側)から開く。

⑫目玉と、口(烏鳶)と外す。

⑬頭部の皮は、大ざっぱに剥いでおく。

 

胴部の処理

⑭胴部(外套膜)の左右に、ヒレがついている。

⑮ヒレの隙間に指を入れて、ヒレと同部を離す。

⑯全身の、表皮を剥ぎ取る。

⑰腹側から開くと背骨の跡が残るため、背側の真ん中から開く。

⑱内側に残っている、腹ワタを掃除する。

⑲内側の、固い薄皮を剥がす。

⑳先端と裾を切りそろえ、縦2つに切って整形する。

 

ヒレと皮の処理

㉑ 左右のヒレに、全身の皮がついている。

㉒ ヒレから、皮を剥ぎ取る。

㉓ 皮は湯引きして冷水に取り、水気を拭き取っておく。

 

刺し身

㉔ ヤリイカのコリコリ感に対し、アオリイカの刺し身はねっとりとした甘みが身上だ。下処理をして1日冷蔵庫で寝かせると、さらに甘みを増す。

㉕ 刺し身に透き通った背骨をあしらい、湯引きした皮を添えるのも一興。

 

㉖ 湯引きした皮を適宜に切り、長ネギのみじん切りと合える。ショウガじょう油で食べると、たまらない・・・酒だ。

㉗ 皮に酢味噌をのっけただけの、ヌタだ。ためらいなく捨てていたイカの皮を、拾いに行きたくなるだろう。

 

㉘ イカ・タコ類の口を、俗に烏鳶(カラス&トンビ)という。尖っている上顎板がカラス、オウムのような下顎板をトンビに見立てている。

㉙ 硬質板を取り抜いた身は、よく引き締まった筋肉だ。数がまとまると、けっこうな値段で売られている。かるく干してから、焼いて食べる。

 

ゲソ部その他

㉚ 刺し身で残った箇所は、酒と塩で合えて15分ほどおく。

㉛ 風通しのいい日陰で、6時間ほど干す。

㉜ この生干しの、サッと焼きがたまらない。アオリイカのウマ味が、凝縮した逸品だ。甘塩で、かるく火を通すことがコツ。

 

卵巣

㉝ 料理は番外編だが、イカは生け簀の中でよく産卵する。魚屋に頼めば、たぶんもらえる。コウイカは1粒ずつだが、アオリイカは房状に細長く連なる。

㉞ 汚れているので、よく洗う。

㉟ 汚れている粘膜を、一枚剥がす。

㊱ 酢じょう油で、そのまま食べておもしろい。旨くはないが、不味くない。おもしろさで酒が進む。保存するなら、酒、しょう油、味醂少々に漬けるといい。

㊲ 昆布で出汁を取り、吸い物にする。

㊳ 見た目の美しさと奇抜さ、おもしろい食感に食卓が華やぐ。初春に孵化したアオリイカは貪欲に食いまくり、秋には産卵期を迎える。晩秋に磯釣りをしていると、産卵後に疲弊したアオリイカがボロ雑巾のような恰好で表層を泳いでいることがある。1粒の卵が、天寿を全うしたのだ。