ムシカレイ - 弁慶丸

西潟正人の魚道場

ムシカレイ

2020.01.14

ムシカレイ

 

カレイの仲間は眼がある方を有眼側、返して無眼側という。背と腹は両側にあるから、表と裏でもない。ムシガレイは虫ガレイ。有眼側に3対、計6個の丸い模様を虫食い班に見立て名がついた。マコガレイなどに比べると淡い色合いで、なんとなく頼りない。水ガレイなんて呼ぶ地方もあるが、近年は高級魚になっている。ムシガレイの旨さに、気づかれてしまったようだ。一干しをサッと焼いたエンガワ辺りに、刺し身も捨てがたい。ならば一匹で、両方を味わおう。

 

下ごしらえ

①主に底曳き網で捕獲され、見た目は薄っぺらい。

②有眼側。顔は右向きだ。

③無眼側。ウロコは柔らかいので、包丁で難なく落とせる。エラぶたを開けて腹を開き、エラごと腹ワタを取り出す。血合いを切ったら、全体を水洗いして水気をしっかり拭き取る。

 

刺し身

④刺し身には、身が厚い有眼側を使う。皆ビレの際に包丁を入れてから、ヒレ際の皮を切っておく。

⑤背骨上の測線に沿って、尾ヒレのつけ根まで切る。

⑥背骨の位置から、外側に向けて開く。包丁で中骨の位置を確かめ、骨に身を残さないように開いていく。魚の向きを変えたら腹骨を切り、腹身も同じように開く。ヒレ際の皮が切れているから、仕上がりが美しい。

⑦腹身に残る、腹骨をすき切る。

⑧背身に残した、小骨(血合い骨)を切り取る。

⑨尾の方向から、皮を引く。

⑩背身と腹身には、美味なエンガワが付着する。引いた皮は湯引きして、精巣(白子)も宝ものだ。

⑪背身を枕にさせて腹身を並べ、エンガワ、皮、白子を添える。身が柔らかい魚の刺し身は、厚めに切ることがコツ。モチッとした食感と、爽やかな甘みが、ムシガレイの身上だ。とっておきの吟醸酒は、きりりと冷やしたい。

 

一干し

⑫有眼側を刺し身にした残り、無眼側は一干しする。開いた側にかるく塩をすると水分が抜けやすく、味わいも深まる。

⑬開いた中骨側から焼いて、皮面は少し焦がす程度にする。そのエンガワ辺りが、たまらない。箸を使うのがもどかしく、手づかみでむしって食べてしまう。同じムシガレイでも、味わいはまったく異なる。こっちは、コップ酒だ。

⑭日本海を新潟から南下した、出雲崎の名物は浜焼きだ。海砂を玄関土間に運んで、母ちゃんたちが魚を焼いている。ムシガレイは、いい香りを立てていた。

⑮さらに南下して「親不知・子不知」を越えると、朝日町だ。漁師家の軒先に、ムシガレイは寒そうに干されてあった。