ハタハタ - 弁慶丸

西潟正人の魚道場

ハタハタ

2019.07.16

秋田名物で「きりたんぽ」に「しょっつる」ときたら、ハタハタを思い描かずにはいられない。しょっつるとは魚を塩漬け醸造した醤油(魚醤)で、豊漁だった時代はハタハタを使った。それで、しょっつる鍋にハタハタは欠かせない魚になった。近年は漁獲調整が必要なほど不漁続きだったが、その甲斐があってか幾分持ち直している。秋が深まるころ、都会のスーパーにだって珍しくない。今宵は家庭で、暖まってみるか・・。

しょっつる鍋

① 腹の大きく張ったものは、産卵期の雌。産地で「ぶりこ」と呼ばれる卵巣は、食感がぶりぶりとして鍋では楽しい食材だ。下ごしらえは特になく、全体を水洗いするだけでいい。

②市販の魚醤(ナンプラー、ニョクマムなど)を代用してもいいが、味には好き嫌いがある。馴染まなければ、家庭の醤油で味つけをする。ハタハタを沈めたら、好みの野菜を周辺に入れる。

③ 沸騰させると身崩れするので、中火でしっかり火を通す。ハタハタ特有のウマ味が、体を芯から温めてくれる。

塩煮

④ 昆布を敷いた鍋に水を入れ、ハタハタを置いたら塩を適宜に振る。

⑤ 落としぶたをして、火が通るまで煮る。煮すぎてはいけない、沸騰したら中火にして、1分ほど煮る。

⑥ 塩味だけの、絶妙さがいい。ハタハタの、どこを食べても味わいがある。大きな胸ビレのつけ根、その筋肉がたまらない。皮もいい、骨までもいい。

⑦ スープが欲しかったら、醤油を色づく程度に垂らす。ハタハタ1匹だけの妙味、ほかの味つけは禁物だ。

ゴマ漬け

⑧ 小ぶりのハタハタには、雄が多い。安くまとめ買いしたら、下ごしらえは順序立てて一斉にやる。

⑨ すべての魚の頭部を、胸ビレの際から落とす。

⑩ すべての魚の腹を開いて、腹ワタを出す。精巣(白子)があったら、まとめて取り置く。

⑪ すべての魚を、一斉に水洗いする。

⑫ 粗塩をたっぷり振り混ぜて、水分を抜く。

⑬ 生酢を、たっぷりと注ぐ。

⑭ 重石をして、一晩置く。

⑮ 溜まった水分を、すべて捨てる。

⑯ 炒った黒ゴマ、刻みショウガ、鷹の爪、に混ぜながら段々に漬け込む。

⑰ 重石をして、3日ごろが食べごろ。

⑱ だが、覗いてしまうと我慢できない。

⑲ ちょっぴり器に盛れば、酒だってキリがない。ゴマ漬けは外房に伝わる、カタクチイワシの料理法だ。骨が柔らかいハタハタだから、応用できる。

白子の塩辛

⑳ 取り集めた白子に粗塩をたっぷりまぶして、水気を切る。酒で洗ったら、再度酒を足して冷蔵庫に寝かせる。3日ほどは、忘れずにかき回す。白子の塩辛だが、これがまた、もったいないほどの珍味だ。ハタハタの群れは、雌雄に分かれているようだ。まとめ買いすると、雄ばかりということがよくある。ぶりぶりとした卵巣を食べる楽しみはないが、身の味わいは雄の方に軍配が揚がる。卵をもたない分、雄は楽をしているからだろうか。

㉑ ハタハタの人気は雌に集中して、雄は比較的安く売られている。少し頑張っただけで、冷蔵庫に宝ものがある幸福。だから、魚料理は止められない。

余談

㉒ 真冬、岩礁に産みつけられた卵塊は、風波で浜へ打ち寄せられるという。秋田の友人が、おやつに食べたものだと教えてくれた。資源管理の厳しい今は採取禁止のはずだが、土産にいただいたことがある。味つけして煮たにもかかわらず、腹から放れた卵塊は食えたものではない。厚手のゴム手袋と格闘しているようで、味わうどころではなかった。